療養型病院とは何か?療養型病院の特徴と看護師の仕事
[著者: 平野雅子 (看護師 /保健師). more..]
療養型病院とは何か
療養型病院とは、急性期の治療が終わり、慢性期になった患者さんが入院・治療をうける、療養病床を持った病院のことです。療養型病院は診療報酬上、急性期のような治療は行わないものの、1年以上の長期入院が可能ですので、慢性期の患者さんはゆっくりと療養することができます。
医療法で、病院の病床は「一般病床」と「療養病床」、「精神病床」、「結核病床」、「感染症病床」の5つに分けられていますが、療養病床を持っている病院が療養型病院とされています。
療養型病院とは、急性期での治療を終えて、慢性期に入った患者さんが療養目的で入院する病院です。
一般的な急性期病院は、基本的には1ヶ月以内、長くても3ヶ月以内に退院となりますが、療養型病院では入院期間の制限はなく、長期療養が可能です。
急性期の一般病床では急性期の積極的な検査や治療が可能ですが、診療報酬の違いから、療養病床では手術や麻酔、特殊な検査などの高度な治療や検査は行われることはありません。
そのかわり、一般病床とは違い、患者さんを長期入院させたからといって、診療報酬で損をすることはなく、「いつまでに退院させる」という期限をつける必要がないのです。
急性期を過ぎて慢性期に入ったけれど、完治はしておらず、継続的な治療が必要で、自宅での療養は難しいという患者さんは療養型病院なら、安心して長期療養ができるでしょう。
療養病床には2種類ある
療養型病院は療養病床を持っている病院のことですが、療養病床には2種類あるって知っていますか?
2016年時点で、療養病床には医療療養病床と介護療養病床の2種類があり、医療療養病床は全国に27万1,000床、介護療養病床は6万1,000床あるのです。
医療療養病床は医療保険を利用しているのに対し、介護療養病床は介護保険を利用した病床という違いがあります。
2000年に介護保険法が施行されたことで、療養病床(当時は療養型病床群)の一部が介護保険を使う介護療養病床として位置付けられました。
そして2001年に医療法が改正され、療養型病床群と老人病院を再編して療養病床としたことで、医療療養病床が誕生し、2種類の療養病床ができました。
そのため、2001年以降、療養病床は医療療養病床と介護療養病床の2種類があるのです。
本来なら、医療療養病床には慢性期の患者さんの中でも医学的管理の必要度が高く、積極的なリハビリが必要な患者さんが入院し、介護療養病床には入院は必要なものの、医学的管理の必要度は低い患者さんが入院することになっていました。
でも、実際はこの医療療養病床と介護療養病床は患者さんの重症度や治療内容において、ほとんど違いはありません。
これを受けて、厚生労働省は介護療養病床の廃止を打ち出しています。以前は平成23年度末までに全面廃止にするという方針を打ち出しました。
ただ、老人保健施設等の廃止後の受け皿の整備が追い付いていないため、期限を延長して平成29年度末までに介護療養病床6万1,000床と看護師配置が手薄である医療療養病床7万6,000床を廃止することを決めています。
現在の介護療養病床を持つ病院がどのような形になるか、医療療養病床へ転換するのか、老人保健施設のような形になるのか、病院を縮小するのかは、まだまだ不透明な部分があります。
療養型病院への転職を考えている看護師さんは、医療療養病床の療養型病院を選んだほうが良いでしょう。
療養病床には医療療養病床と介護療養病床の2種類があるけれど、平成29年度末には療養型病床は廃止になってしまうのです。
療養型病院の看護師配置・施設基準
療養型病院は、急性期を過ぎた慢性期の患者さんが入院するところですので、急性期病院に比べると医師や看護師の人数は少なめで良いと決められています。
では、療養型病院の医師や看護師の配置人数を急性期病院と比べてみましょう。
医師 | 看護師 | 看護補助者 | 薬剤師 | |
急性期病院 | 16:1 | 3:1 | 決まりなし | 70:1 |
療養型病院 | 48:1 | 4:1 | 4:1 | 150:1 |
療養型病院の看護師配置は、介護療養病床が廃止される平成29年度末までは6:1で良いとされています。
ただ、6:1の看護師配置のままだと、たとえ医療療養病床だとしても「看護師配置が手薄」として、そのまま廃止されることになりますので、療養型病院は4:1の配置にしなければいけません。
この看護師配置人数を見て、「急性期は7:1で、療養型病院は20:1とかじゃないの?」と疑問に思った人もいると思います。
ご紹介した看護師配置は医療法によるものです。医療法では、病床数に対して看護師何人を雇用しているか問題になります。
それに対し、急性期は7:1、療養型病院は20:1などは診療報酬上の決まりです。これは実際に勤務している看護師の人数が問題になります。
日勤と夜勤を平均して、患者さん7人に対して看護師は最低1人、患者さん20人に対して看護師1人が勤務している必要があるのです。
このように、看護師配置は何によって定められているかによって表現方法が違ってくるのですが、医療法で看護師配置が4:1としている場合は診療報酬上では20:1、医療法で看護師配置が6:1の場合は診療報酬では25:1と考えて良いでしょう。
つまり、看護師配置が25:1の療養型病院は平成29年度末には、20:1(医療法で4:1)にするか、介護施設のような形になるかという変化が求められることになり、先行き不透明であると言えるのです。
このほかにも療養型病院の施設基準は、医療法で次のように決められています。
◆病室=1人あたり6.4平方メートル以上(急性期は4.3平方メートル以上)
◆廊下幅(片廊下1.8m、中廊下2.7m)
◆機能訓練室、談話室、食堂、浴室を設置する
出典:療養病床の医療法上の取扱い
急性期病院には手術室や診察室、処置室、X線装置などの設備が必要なものの、機能訓練室や談話室、食堂、浴室の設備は必ず必要というわけではありません。
このような設備の違いを見ると、療養型病院は入院する患者さんにとって、より日常生活に近い場、生活を送る場所という意味合いが強く、長期療養に適した環境であることがわかります。
療養型病院は急性期病院に比べて看護師の配置人数は少ないけれど、病室が広くて、談話室や食堂があるなど生活しやすいようになっているのです
療養型病院の看護師の仕事
療養型病院での看護師は、医療行為だけではなく介護業務も行いますので、幅広い仕事をすることになります。
療養型病院に入院している患者さんは、慢性期で状態は落ち着いているため、医療処置は少なめですし、急変や緊急の検査出しなどはありません。
また、急性期病院のように入院期間が短いわけではないので、入退院の頻度もとても少なく、緊急入院は基本的にありません。
このような説明をすると、療養型病院はゆとりを持って落ち着いて楽に働けると思うかもしれませんが、そんなことはありません。
看護師1人あたりの患者さんの人数が多いため、やらなければいけない事がたくさんあるからです。
ただ、先ほど言ったようなイレギュラーな仕事は少なめですので、忙しくても突然仕事が増えてパニックになるようなことはないでしょう。
療養型病院での看護師の1日の流れを見ていきましょう。
<療養型病院の看護師の日勤>
8:30 | 夜勤からの申し送り |
8:45 | バイタルサインのチェック |
10:00 | 皮膚処置、便処置 |
11:30 | 食前の与薬、経管栄養準備 |
12:00 | 経管栄養投与 |
12:30 | 食後薬の与薬 |
13:00 | 自分の休憩 |
14:00 | バイタルサインのチェック |
15:30 | 点滴の投与やリハビリ |
16:15 | 看護記録の記入 |
16:45 | 夜勤への申し送り |
17:00 | 勤務終了 |
療養型病院の看護師の日勤の仕事の一例を見て、意外と楽そうと思うかもしれませんが、この間オムツ交換や保清、食事介助、口腔ケアなどを行いますし、ナースコールにも対応しますので、基本的にはバタバタしています。
次に、療養型病院の看護師の具体的な仕事内容を見ていきましょう。1日の流れだけでは見えてこない仕事も療養型病院の看護師は行っています。
<療養型病院の看護師の仕事内容>
異常の早期発見 |
感染対策 |
褥創や皮膚創傷の処置 |
排便コントロール |
リハビリ介助 |
与薬 |
呼吸管理、痰の吸引 |
介護業務 |
家族支援 |
療養型病院では、慢性期の患者さんが入院していますので、急性期のようにバイタルサインが不安定で急変しやすいという事はありませんが、それでもバイタルサインを測定したり、日々の観察から異常の早期発見に努めなければいけません。
また、長期入院していると、院内感染や誤嚥性肺炎などを起こしやすくなります。
他にも、褥瘡や皮膚の創傷がある人が多いですし、便秘の患者さんも多いので、感染対策や皮膚処置、排便コントロールは、療養型病院の看護師の重要な仕事です。
それ以外にも、在宅復帰へ向けてのリハビリや体調管理のための与薬も大切ですし、呼吸管理も大切です。
療養型病院では、気管切開をして酸素療法や人工呼吸器管理をしている患者さんも多く、痰の吸引は頻回に行わなければいけませんし、呼吸理学療法等で呼吸管理を行わなければいけません。
そして、療養型病院では介護業務を行うことが多くなります。
療養型病院では介護士(看護助手)が配置されていますが、それでも看護師は介護業務を全く行わなくて良いというわけではありません。
特に、重症患者さんの体位交換や保清などは看護助手に任せられないので、看護師が行うことが多いのです。
そのため、「介護士がいるから、看護業務に専念できて楽!」というわけではないので、療養型病院に転職を考えている看護師さんは、介護業務も行わなければいけないことも覚悟しておきましょう。
療養型病院では医療処置は少なめですが、異常の早期発見や皮膚処置や呼吸管理などが重要な仕事になります。また、介護業務も多いです。
療養型病院の看護師の役割
療養型病院の看護師の役割は、患者さんの体調管理と在宅復帰への支援、家族支援の3つになります。
患者さんの体調管理
療養型病院の患者さんは、病状は安定しているものの、まだ治療が必要ですので、異常の早期発見に努めつつ、体調管理を行わなくてはいけません。
在宅復帰への支援
また、療養型病院は急性期病院とは違い、入院期間に制限はありません。必要であれば1年以上の長期にわたって入院することも可能です。
だからといって、現状維持で良い、ずっと入院していて良いというわけではありません。
入院している以上、最終的な目標は在宅復帰です。
ただ、長期入院していると、患者さん本人がその目標を忘れてしまったり、在宅復帰へのモチベーションを保つことができません。
療養型病院の看護師は日々のケアの中で、またリハビリを手伝う中で患者さんの在宅復帰へのモチベーションを上げ、ADLをアップさせ、在宅復帰へつながるようなに支援をしていく役割を担っているのです。
家族支援
そして、長期入院は患者さんの家族を疲弊させることになります。
療養型病院の看護師は、家族が抱えている問題やニーズを的確に把握し、必要であればソーシャルワーカーへの橋渡しをするなど家族支援を行っていく必要があるのです。
ただ療養型病院では、患者さんと家族の認識にズレが生じていることがあります。
患者さんは早く退院して自宅へ帰りたいけれど、家族は自宅で介護はできない、このまま入院していてほしいというケースです。
このケースは少々厄介です。「これぞ、療養型病院の看護師の仕事!」とやりがいを感じる人もいると思いますが、患者さんと家族の認識がずれている場合、それをすり合わせていくのはとても難しいのです。
こういうケースは看護師が介入すべきなのですが、介入の仕方によっては患者さんと家族の関係性を悪くするだけだったり、患者さんの治療への意欲を削いでしまう事になりかねません。
看護師は患者さんと家族の両方の意思を確認しつつ、医師やソーシャルワーカーと協力して問題解決に当たる必要があります。
療養型病院の看護師の役割は、患者さんの体調管理と在宅復帰への支援、家族支援の3つになります。
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