呼吸器内科の特徴、看護師の仕事、スキル・適性、給料アップ法
[著者: 平野雅子 (看護師 /保健師). more..]
呼吸器内科は肺がんや肺炎、COPDなどの疾患を治療する診療科です。
呼吸器内科の看護師は、一般的な看護業務以外に化学療法の看護や呼吸管理などを重点的に行うという特徴があります。
呼吸器内科で働くメリットは、やりがいを感じられることと、看護技術を習得しやすいことです。
デメリットは内科病棟の中でも忙しいことと、精神的な負担が大きいことになります。
呼吸器内科での求人を選ぶなら、がん患者さんの割合と、急性期か慢性期かをチェックして選ぶようにしてください。
給料は、呼吸器内科は他の診療科と同じ程度になりますが、「3学会合同呼吸療法認定士」や「慢性呼吸器疾患看護認定看護師」の資格を取得すると、給料アップにつながるでしょう。
1.呼吸器内科の特徴
呼吸器内科は、手術を必要としない呼吸器疾患の患者さんの治療を行う診療科です。
人間は酸素を取り込んで二酸化炭素を排出しなければ生きていくことが出来ませんので、呼吸器内科はとても重要な診療科ですし、高齢者の増加に伴って、さらに需要は高まっています。
肺がんはがんの部位別死亡率で男性1位、女性2位となっています。
(出典:がんの部位別統計 | 日本対がん協会)
また、呼吸器内科の代表的な疾患と言える肺炎は、日本人の死因の第3位となっています。
(出典:平成27年(2015)人口動態統計の年間推計 結果の概要(PDF) )
そして、ここ数年で注目が高まっている呼吸器の病気がCOPDです。COPDは日本人の死因の第10位の疾患で1年間で1万5,000人以上の人が亡くなっています。
(出典:平成27年(2015)人口動態統計(確定数)の概況 第6表(PDF))
COPDの有病率は8.4%とされていて、日本では潜在患者数は500万人にも上ると想定されているのです。
(出典:Topics1 疫学の動向と将来の予測‐日本呼吸器学会(PDF))
肺がん、肺炎、COPDは高齢者に多い病気ですので、高齢者の増加に伴って、呼吸器内科は今後さらに重要が高まることが予想されます。
ただ、呼吸器内科の患者さんは高齢者だけではありません。
インフルエンザをこじらせれば呼吸器内科の領域になりますし、気管支喘息も呼吸器科で診る病気になります。
そのため、高齢者だけではなく患者さんの年齢層は比較的幅広いのも呼吸器内科の特徴の1つと言えるでしょう。
2.呼吸器内科の看護師の仕事内容
呼吸器内科の看護師の仕事内容は、そのほかの一般病棟の看護師の仕事内容と基本的には変わりません。
医師の指示のもとに、バイタルサインのチェックや薬剤の投与、処置などの診療の補助を行い、清潔ケアや排せつ介助などの日常生活援助を行います。
ただ、呼吸器内科に特徴的な仕事内容はあります。それは、化学療法と呼吸管理の2つです。
呼吸器内科では肺がんの患者さんが多く入院しています。
手術が適用にならない肺がんの場合は、呼吸器外科ではなく呼吸器内科に入院となります。
そして、その場合の治療は化学療法が中心になりますので、呼吸器内科の看護師は化学療法の看護を行うことが多いのです。
化学療法を行う患者さんには、副作用や血管外漏出の有無を観察して、副作用が出たらそれを緩和させるためのケア、精神的なケアなどを行っていく必要があります。
(ネーザルハイフロー装着中の写真。Fisher & Paykel社の資料より抜粋)
また、呼吸管理・酸素投与を行うことが多いのも、呼吸器内科の看護師の仕事の特徴の1つです。
呼吸器内科の患者さんは、肺炎など排痰ケアと酸素投与が必要な人が多いのです。
そのため、痰の吸引や体位ドレナージなどの排痰ケアを、きちんとアセスメントをして行う必要があります。
酸素投与は鼻カニュラ(ナザール)や酸素マスク、リザーバーマスクを使った一般的なものから、CPAP療法やベンチュリーマスクのようなものもありますし、人工呼吸器を使うこともあります。
医師の指示に基づいた色々な酸素療法を管理し、患者さんに適切に酸素が送られているかを観察するのは、呼吸器内科の看護師の大切な仕事になります。
呼吸器内科の看護師の特徴的な仕事は、化学療法の看護と呼吸管理です。
3.呼吸器内科の看護師のメリット
呼吸器内科の看護師のメリットは、やりがいを感じられることと看護技術を習得しやすいことの2つがあります。
3-1.やりがいを感じられる
呼吸器内科の看護師のメリットの1つ目は、やりがいを感じられることです。
急性期病棟では医師の指示に基づいた医療行為を行うことが多く、看護の力を実感できる場面はそれほど多くありません。
看護の力の限界を実感することも多いと思います。
でも、呼吸器内科では看護の力で患者さんの状態を改善させることができるのです。
分かりやすい例で言えば、排痰ケアです。
人工呼吸器を装着している患者さんは痰が溜まりやすいですが、痰を吸引すれば一気にSpO2が上がります。
また、薬の力に頼るだけではなく、体位ドレナージやスクイージングなどの排痰ケアを行うことで、痰を出しやすくすることができます。
呼吸器内科では生活指導を通して患者さんの呼吸状態を改善することもできます。
呼吸器内科にはCOPDの患者さんが多いのですが、COPDはタバコが原因のことがほどんとです。
COPDで入院してきた患者さんに、「禁煙の大切さや禁煙の方法の提案」、「呼吸リハビリテーションの方法」や「適切な運動習慣の指導」などを、患者さんの状態に合わせて行わなければいけません。
このような生活指導は、COPDの増悪をストップさせるためには、とても重要なことです。
1人1人の患者さんの生活環境などに合わせて生活指導をすることは、呼吸器内科の看護師の腕の見せ所です。
医師の指示で行った医療行為ではなく、自分の行った看護で患者さんの呼吸状態が改善するなど看護の成果を実感できるのは、呼吸器内科で働く醍醐味と言えるでしょう。
3-2.看護技術を習得しやすい
呼吸器内科で働くメリットの2つ目は、看護技術を習得しやすいことです。
呼吸器内科には重症の患者さんが多いので、一通りの看護技術を身につけることができます。
また、呼吸器内科では呼吸管理を行う機会が多いので、他の診療科に比べて、呼吸管理のスペシャリストになることができるのです。
呼吸管理は呼吸器内科だけではなく、どの診療科でも必要なことですし、ICUや救命救急センター、手術室でも役立つスキルですので、今後どの職場に転職してもあなたの武器になるスキルです。
さらに呼吸器内科は、がん看護を経験することができます。
このように、呼吸器内科で働くと、看護技術を習得しやすいというメリットがあるのです。
4.呼吸器内科の看護師のデメリット
呼吸器内科の看護師のデメリットも確認しておきましょう。
呼吸器内科で働くデメリットは、内科病棟の中でも忙しいことと、精神的な負担が大きいことの2つです。
4-1.内科病棟の中でも忙しい
一般的に、内科病棟は外科病棟よりは落ち着いた雰囲気のところが多いですが、呼吸器内科は需要が高い診療科ですので、患者数が多く忙しいです。
また、呼吸器内科は肺がんや肺炎、COPDの重症な患者さんが多いのです。
部位別がんの中で男性の死亡者数1位、女性の死亡者数2位の「肺がん」、死亡原因第3位の「肺炎」、第10位の「COPD」を扱う診療科なのですから、重症な患者さんが多いのは仕方がないことです。
重症な患者さんが多ければ、行うべき看護ケアの量が多いですし、急変も多いので、どうしても勤務中はバタバタしたり、残業が多くなってしまいます。
4-2.精神的な負担が大きい
精神的な負担が大きいことも、呼吸器内科の看護師のデメリットです。
呼吸器内科はターミナル期の患者さんが少なくありませんし、呼吸苦があることは本当につらいので、そのような患者さんの看護をするのは、精神的な負担を感じることがあるのです。
ターミナル期の看護は患者さんや家族の精神的なケアが必要になりますが、そのようなケアをするのは、看護師の精神的な負担・ストレスになります。
また、自分の無力感を感じてしまうこともあるでしょう。
呼吸苦がある患者さんの看護をする時も同様です。
「呼吸が苦しい」というのは、患者さんにとって苦痛であり恐怖を感じることです。
どんなに頑張って排痰ケアをし、医師の指示通りに酸素投与をしても、呼吸苦を改善できないこともあります。
そういう時に、看護師は無力感を感じてしまうことも少なくありません。
5.呼吸器内科の看護師に必要なスキル
呼吸器内科の看護師に必要なスキルは、「コミュニケーションスキル」と、「相手の立場に立って物事を考えるスキル」、「感染管理に興味があること」の3つです。
ただ、この3つのスキルを持っていないと呼吸器内科で働けないというわけではありません。
呼吸器内科で働きながら、徐々に身につけていくことも可能です。
5-1.コミュニケーションスキル
呼吸器内科では看護師が患者さんや家族に説明する機会が多いので、コミュニケーションスキルが必要になります。
意識がある患者さんには、痰を出すことの重要性、痰を出しやすくする方法、呼吸が楽になる体位調整法、呼吸理学療法などを説明して、セルフケアができるように促します。
また、COPDの患者さんや家族には生活指導やHOT導入の注意点などを説明しなければいけません。
これらを的確に、また効果的に行うためには、看護師がいかにわかりやすく説明するかが重要になりますので、呼吸器内科の看護師はコミュニケーションスキルが必要になるのです。
5-2.相手の立場に立って物事を考える
呼吸器内科の看護師は相手の立場に立って、物事を考えるスキルも必要です。
呼吸が苦しいのはとても辛いことです。呼吸が苦しいことは、痛みよりも辛いと言われています。
呼吸が苦しいと、食事をする気にならないですし、眠ることもできません。著しくQOLを下げるのです。
そのような患者さんの辛さ、苦しさをしっかり理解して共感し、寄り添うような看護が呼吸器内科では要求されます。
5-3.感染管理に興味がある
感染管理に興味がある人も、呼吸器内科に向いていると言えるでしょう。
感染管理への意識が高いことは呼吸器内科の看護師に必要なスキルなのです。
呼吸器内科では肺炎やインフルエンザ、肺結核などの感染症の人が多いので、看護師は院内感染を防ぐために、感染管理をしっかり行わなければいけません。
また、重症の患者さんの痰からは、MRSAなどの院内感染の原因となる細菌が検出されやすいので、感染拡大を防ぐためにも、感染管理に対して高い意識を持っていないといけないのです。
6.呼吸器内科の看護師の求人選びのポイント
呼吸器内科の看護師の求人選びのポイントは、「がん患者さんの割合」と「急性期なのか慢性期なのか」の2つです。
この2つを調べておくことで、呼吸器内科の中でもどんな仕事が中心になるのかがある程度わかります。
6-1.がん患者さんの割合
呼吸器内科の求人を選ぶ時には、がん患者さんの割合を調べましょう。
がん患者さんの割合が多い呼吸器内科では、がん看護がメインとなります。
そのため、呼吸器疾患の看護全般だけでなく、がん看護についても学ぶことができます。
勉強すべき範囲が広いので大変なのですが、それだけスキルアップができるというメリットがあります。
がん診療連携拠点病院に指定されている総合病院ではがん患者さんの割合が高くなりますし、個人病院だと肺がん以外の疾患の割合が高くなるでしょう。
6-2.急性期か慢性期か
呼吸器内科の求人を選ぶ時には、急性期か慢性期かもチェックしましょう。
急性期ではがん患者さんや重症肺炎などの重症な患者さんが多いので、人工呼吸器の管理や全身管理、化学療法看護などを経験することができます。
慢性期の呼吸器内科では、呼吸管理をしながらも、呼吸リハビリテーションや生活指導などの仕事の割合が多くなります。
呼吸器内科の中でも急性期に興味があるのか、慢性期に興味があるのかを考えて、求人を選ぶと良いでしょう。
7.呼吸器内科の看護師の給料と給料アップ方法
呼吸器内科の看護師の給料は、他の診療科とほとんど同じになります。
給料アップをするためには、呼吸器内科で役立つ資格を取得すると良いでしょう。
7-1.呼吸器内科の看護師の給料
呼吸器内科の看護師の給料は、他の診療科と大きな違いはありません。夜勤に入る場合は、経験5年で月収30万円前後になるでしょう。
ただ、他の内科で働くよりは、少しだけ給料は高めかもしれません。
なぜなら、呼吸器内科は忙しいので、他の診療科に比べると残業が多いからです。残業が多ければ、時間外手当がつきますので、それだけ給料が高くなるのです。
7-2.呼吸器内科での給料アップ方法
呼吸器内科で給料をアップさせるには、呼吸器内科で役立つ資格を取得しましょう。
資格を取得してキャリアアップすれば、資格手当がつくことがあります。
また、資格を活かして職場でリーダーシップを発揮しながら働けば、昇進のチャンスが巡ってきますので、給料アップにつながるのです。
呼吸器内科で役立つ資格には、3学会合同呼吸療法認定士があります。
この3学会合同呼吸療法認定士は、日本胸部外科学会、日本呼吸器学会、日本麻酔科学会の3学会が合同で認定している資格です。
呼吸療法認定士の資格を取得すると、呼吸療法の目的や理論、治療の実際などについて高度な専門知識を持っていると認められたことになりますので、呼吸器内科での看護に活かすことができます。
この呼吸療法認定士は看護師経験が2年以上あり、認定委員会が認める学会や講習会に参加して、2日間の認定講習会を受ける必要があります。
その後、認定試験に合格すれば、呼吸療法認定士の資格を取得することができます。
呼吸器内科の中でも慢性期に興味がある人は、日本看護学会が認定している慢性呼吸器疾患看護認定看護師の資格を取得すると良いでしょう。
慢性呼吸器疾患看護認定看護師は安定期、増悪期、終末期の各病態に応じた呼吸管理ができたり、呼吸リハビリテーションの実施、セルフケアの支援などの高いスキルを持った看護師のことです。
慢性呼吸器疾患看護認定看護師になるためには、看護師経験が5年以上あって、さらに次の要件を満たす必要ああります。
- 通算3年以上、慢性呼吸器疾患患者が多い病棟を中心とした看護実績を有すること。(COPD、間質性肺炎、気管支喘息、気管支拡張症、肺結核後遺症、非結核性抗酸菌症、肺線維症、睡眠時無呼吸障害等。神経・筋疾患による呼吸障害を含む。)
- 慢性呼吸器疾患の増悪期から回復期にある患者の看護を5例以上担当した実績を有すること。(入院から退院まで担当した経験、またはそれに準じる内容であること)
- 現在、慢性呼吸器疾患患者の看護に携わっていることが望ましい。
この要件を満たし、認定看護師の教育機関で645時間(+15時間)の研修を受けて、認定試験に合格すると、慢性呼吸器疾患看護認定看護師になることができます。
呼吸器内科の中でもがん患者さんが多い職場の場合、がん看護関係の認定看護師や専門看護師の資格を取得すると良いでしょう。
呼吸器内科に関係があるがん看護関係の認定看護師や専門看護師の資格には、次のようなものがあります。
- がん看護専門看護師
- がん化学療法認定看護師
- がん性疼痛看護認定看護師
- がん放射線療法看護認定看護師
これらの資格の中で、どれが最も良いのかは、その職場での業務内容や患者さんの疾患によります。
働きながらどの資格が最も求められているのか、必要なのかを考えながら、チャレンジする資格を決めると良いでしょう。
まとめ
呼吸器内科の看護師の特徴や仕事内容、メリット・デメリット、必要なスキル、求人選びのポイント、給料と給料アップのためのキャリアアップのための資格をまとめました。
呼吸器内科は、病院によっては呼吸器外科とまとめて「呼吸器科」としているところもあります。
呼吸器科の場合は呼吸器外科の看護も経験できますので、外科にも興味がある人は、呼吸器科としている職場を探してみると良いでしょう。
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