療養型病院を職場とする看護師の仕事のメリットとデメリット
[著者: 平野雅子 (看護師 /保健師). more..]
看護師が療養型病院で働く5つのメリット
一般病院とは違い、慢性期で病状が比較的安定している患者さんが多い療養型病院ですが、療養型病院で働く看護師のメリットとデメリットには何があるのかを確認しておきましょう。
まずはメリットからです。看護師が療養型病院で働くメリットは5つあります。
個別性のある看護ができる
看護師が療養型病院で働くメリットの1つ目は、1人1人に合わせた看護ができることです。
療養型病院では、入院期間に制限がありませんので、1年以上と長期にわたって入院している患者さんも珍しくありません。
一般病院では診療報酬の問題で、入院期間はできるだけ短くする傾向にありますので、基本的には1ヶ月以内、長くても3ヶ月以内に退院します。
入院期間が短い場合は1泊2日や2泊3日ということもあります。
入院期間が短いと、1人1人の患者さんとじっくりと向き合う時間がありませんので、個別性のある看護をすることができません。
「ようやく患者さんと信頼関係が築けてきたかな」と思ったころには、退院になってしまいます。
特に最近では、急性期病院ではクリニカルパスに沿った治療・看護をするのが主流になってきています。
ですから、とにかく最短で退院させるようになっていますし、クリニカルパスに沿ったマニュアル通りの看護をしなければいけない事が多いんです。
でも、療養型病院は短くても数ヶ月間、長ければ数年間も入院しています。
長期間入院している中で、その患者さんの特徴や傾向をしっかりと観察することができます。
入院期間が長ければ、患者さんと信頼関係を築くことができますし、患者さんのニーズや家族のニーズを的確に掴むこともできます。
そうすれば、その患者さんの個性を大切にして、ニーズに合わせた個別性のある看護計画を立てて、看護を提供することができるのです。
急性期病院で患者さんの入院期間が短いために、自分の理想とする看護ができないと悩んでいる看護師さんは、療養型病院に転職してみるのも良いと思います。
精神的なゆとりを持って働ける
療養型病院では、精神的なゆとりを持って働くことができます。
療養型病院に入院している患者さんは、状態が比較的安定していて、急変するリスクは低めです。
急性期病院では「いつ急変してもおかしくない」という緊張感を持ちながら働かなくてはいけません。
また、複雑で命に直結する医療機器がたくさんありますので、「ミスをしたら、患者さんが死んでしまう」という精神的なストレスを抱えながら働かなくてはいけません。
療養型病院でも患者さんが急変するリスクはありますし、複雑な医療機器も使用することはあります。
しかし、急性期病院と比べると急変するリスクも、医療機器を使う頻度も少ないので、精神的なストレスは少なく、ゆとりを持って働くことができます。
急性期よりも体力的に楽
療養型病院では、介護士さん(看護助手)が配置されていますので、オムツ交換や体位交換、排泄介助、入浴介助などの介護業務は基本的に介護士さんが行います。
状態が不安定な患者さんの介護業務は、介護士さんには任せられないので、看護師が行うことが多いのですが、それでも介護士さんがいてくれるので、力仕事は急性期病院よりは少なめです。
体力的に楽というだけでなく、看護師の職業病とも言われている腰痛になるリスクも低くなるのです。
また、療養型病院の看護師は、急性期病院のように忙しくバタバタと病棟を走り回ることもありませんので、療養型病院の看護師は体力的に楽に働くことができるのです。
残業が少なめである
先ほども触れましたが、療養型病院では急変は少なめです。
急性期病院のような緊急入院もありません。ほぼ100%が予定入院です。そして、療養型病院では手術をすることもありません。
そのため、療養型病院では突発的に仕事が増えることがあまりないのです。
決められた仕事、ルーティンで行う仕事ばかりですので、勤務時間内で仕事が終わることが多く、残業は少なめになります。
残業が少なめで、急性期よりも比較的体力的に楽に働くことができますので、家事や育児と仕事を両立させたい看護師さんには、療養型病院はおすすめの職場なのです。
また、残業があると日勤後の予定を入れられないから彼氏や友達と遊べない、プライベートがおろそかになって仕事中心の生活にウンザリしているという看護師さんも、療養型病院へ転職すると、悩みを解決することができるでしょう。
看護スキルを維持できる
療養型病院は精神的にゆとりを持って働くことができ、体力的にも比較的楽で、残業が少なめであるというメリットがあります。
同じようなメリットがある職場には介護施設などがありますが、療養型病院には介護施設にないメリットがあります。それは、医療行為があることです。
急性期病院のようにバリバリ忙しく働くのは、ちょっと嫌だけど、看護師である以上、医療行為を行いたい、患者さんの治療に参加したいと思う看護師さんも多いと思います。
療養型病院では急性期のような治療は行わないものの、呼吸管理や点滴、吸引、採血などの医療行為を行いますので、楽に働きつつも医療行為を行うことができるのです。
「急性期病院で働いていて疲れてしまったので、いったん他の職場で働きながらパワーチャージをして、また将来的に急性期病院で働きたい」と思っている看護師さんは、療養型病院へ転職すると良いでしょう。
療養型病院なら、ゆとりを持って楽に働きつつも医療行為がありますので、急性期病院で働くために必要なスキルを忘れずに維持できます。
そのため、また急性期に戻りたいと思った時でも、スムーズに急性期に戻って仕事に慣れることができると思います。
療養型病院のメリットは、「個別性のある看護ができる」、「精神的にゆとりを持って働ける」、「体力的に楽」、「残業が少ない」、「看護スキルを維持できる」の5つです。
急性期病院と介護施設の良いところを合わせたようなメリットがあると言えるでしょう。
看護師が療養型病院で働く3つのデメリット
療養型病院で看護師が働くデメリットも確認しておきましょう。
療養型病院のデメリットもきちんと把握しておかないと、療養型病院へ転職した後に、「イメージと違った」と後悔することになりかねません。
病院によってはルーティンワークだけのこともある
療養型病院の患者さんは長期間入院していますので、1人1人の患者さんと深くかかわり、信頼関係を築きながら、その患者さんに合わせた看護をすることができます。
ただ、残念ながら、すべての療養型病院で個別性のあるケアをすることが出来るというわけではありません。
療養型病院によっては、「バイタルサインを測って、経管栄養を投与して、薬を投与して、保清をして、吸引をして」と全ての患者さんを同じように扱い、ルーティンワークのみを流れ作業のように行うこともあるのです。
看護計画は入院時に一応立案はするものの、その後は評価・修正することなく、そのままになっていることもあります。
そのような療養型病院では、ただ何も考えずに目の前の仕事を黙々と行うだけになってしまい、看護師としての仕事に疑問を感じるようになってしまいます。
基礎的なスキルアップが難しい
療養型病院では、看護師としてのスキルアップが難しいというデメリットがあります。
もちろん、療養型病院だからこそ経験できる業務もたくさんあります。
慢性期や認知症看護、老人看護などの分野では、療養型病院でもスキルアップ・キャリアアップが可能です。
「これからずっと慢性期で働いていくつもりだし、慢性期看護や認知症看護を極めていきたい」と思っている看護師さんは療養型病院で働けば、スキルアップ・キャリアアップしながら、理想の看護師に近づくことができるはずです。
ただ、一般的な看護技術の習得という面で考えると、療養型病院ではスキルアップが難しいのです。
急性期病院は様々な疾患や症状を持つ患者さんがたくさんいますし、重症度が高いですから、医療処置も多めです。
急性期で働けば、採血や静脈注射、気管吸引などの基礎的な看護技術を自然と身につけることができます。
急変対応の経験も積むことができますので、緊急事態にも落ち着いて適切な対応ができるようになります。
また疾患や症状も幅広いので、勉強すべきことが多く、広く深い看護知識を身につけることができます。
療養型病院は採血や注射、気管吸引などの看護技術は使いますが、その頻度は急性期に比べると少ないですし、急変の頻度も少なめです。
療養型病院では、重症患者さんの集中ケアや手術後の全身管理などをすることがありません。
患者さんの疾患や症状も、急性期に比べると限定されています。
そのため、看護師の基礎的な知識・技術を身につけたいと思っている新卒看護師や若手看護師さんには、療養型病院で働くのはおすすめ出来ないのです。
療養型病院で看護師の基礎知識・技術を身につけることが出来ないというわけではありませんが、急性期病院で働いた場合と比べると、一人前の看護師になるまでには時間がかかってしまうと思います。
療養型病院は、一度身につけた看護スキルを維持することはできますが、ゼロから新しく身につけるのは難しいのです。
看護師としてのやりがいを感じにくい
療養型病院で看護師が働くデメリットの3つ目は、やりがいを感じにくいことです。
療養型病院の患者さんは、急性期病院のように目に見えてメキメキと回復していくことはありません。
多くの患者さんが現状維持が基本になりますので、療養型病院では患者さんの変化・回復を感じにくいのです。
元気になって歩いて退院していく姿を見送る機会もほとんどないでしょう。
療養型病院で働いている看護師さんは、自分がやった看護の成果が見えてこない、実感できないので、やりがいを感じにくいというデメリットがあります。
自分のやっている看護は患者さんのためになっているのか、療養型病院では何のために看護をしているのかと悩むこともあるでしょう。
また、療養型病院によっては意識がない寝たきりの患者さんが多いところもあります。
そのような療養型病院では、患者さんとのコミュニケーションが取りにくく、看護師主導の看護になってしまいます。
患者さんから「ありがとう」という一言を言ってもらえる事もありません。
患者さんから、ちょっとした時に「ありがとうね」や「助かるわ」言ってもらえる事にやりがいを感じる看護師さんは多いと思いますが、療養型病院ではそれがない事がありますので、やりがいを感じる機会が少ないのです。
療養型病院のデメリットは、ルーティンワークになりやすいこと、スキルアップが難しいこと、やりがいを感じにくいことの3つです。
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