その日私は、救急外来の担当でした。
救急車で運ばれてきた患者さんは、3歳。
脳神経外科に救急搬送される患者さんの多くは、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血など、いわゆる血管系の老化に伴う血管の破綻から起きる疾患です。そのため、高齢の方がほとんどです。
その3歳の子供は、子供乗せ自転車のかごに乗っていた状態で、自転車が倒れ、コンクリートに頭を強打し、運ばれてきました。
外傷性脳出血でした。
自転車に乗って、買い物に行き、自宅に帰った時に起きた事故でした。
お子様を持つ方なら想像がつくかと思いますが、重い荷物と子供をおろす順番を間違えたのです。
考え事でもしていたのでしょうね。
この日は、なぜか子供からではなく、荷物を先におろしてしまったのです。
自転車の前と後ろに、子供・荷物がのっていて、バランスが取れていた状態から、荷物をおろした瞬間、バランスを崩し、子供が乗ったまま自転車が横に倒れてしまったのです。
お母さんの不注意が原因の事故でした。
付き添ったお母さんは、半狂乱で、そのお母さんの気持ちを考えると涙がでました。
私が変わってあげたいと思ったでしょうね。
救急対応していたスタッフ全員、「絶対助けてあげるからね」と思っていたと思います。
緊急手術に向けた検査や処置が、流れるように施され、手術に向かいました。
長い手術を終え、3歳の子供が集中治療室に戻ってきた姿は、手術創の髪の毛は剃られ、頭に数本の管が挿入され、足の付け根からは、点滴の管が挿入されています。
私たち医療者は、そのような人間の姿を日々、目にしているため、良かった、これで何とかなりそうだ。と元気になっていく姿を想像出来ますが、お母さんの目にはどのように映ったでしょうね。
さっきまで、スーパーで、おもちゃやお菓子をせがんで困らせていた子供が、たった数時間で、変わり果てた姿で目の前に横たわっている。
また、大人用の大きなベットに横たわる3歳児の姿は、本当に弱々しく見えます。
しかし、子供の脳は本当に回復が早く、驚異的なスピードで元気になっていきました。
一側の上下肢に軽度の麻痺は、ありましたが、リハビリで回復するレベルでした。
看護師になって良かった。こんな自分でも、人の役に立てるんだと思いました。
お母さん良かったね。本当に辛かったですね。
今頃、あの子は20歳くらいになっていると思います。どんな大人になっているのかな?。
素敵に成長しているんだろうな?